髙島野十郎(1890-1975)は「孤高の画家」あるいは「蠟燭の画家」として知られる洋画家です。生前にはほとんどその存在が知られることはありませんでしたが、福岡県立美術館をはじめ、没後に各地で開かれた展覧会をきっかけとして、近年ますます評価が高まっています。卓越した技量に裏付けられた、息詰まるような緊張感さえ感じさせるその作品のみならず、自己の信念に誠実であろうとした画家としての生き方にもまた多くの人が魅了され続けています。
明治23年(1890)、福岡県久留米市の酒造家に生まれた野十郎は、東京帝国大学農学部水産学科を首席で卒業しながら、周囲の期待に反して、念願であった画家の道を敢然と歩みだしました。「世の画壇と全く無縁になることが小生の研究と精進です」とする野十郎は、独学で絵を学び、美術団体にも所属せず、家庭を持つことさえ望まず、流行や時代の趨勢(すうせい)におもねることなく、自らの理想とする絵画をひたすら追求する超俗的な生活を送りました。
野十郎の絵画は、一貫して写実に貫かれています。しかしながら、彼の写実は単なる再現的描写にとどまらず、その表現や対象のとらえ方に独特の個性が光り、それゆえ画面は生き生きとした生命感に満ちあふれています。人々の目と心を惹きつけてやまない髙島野十郎の深遠なる絵画世界、そして魂の軌跡をどうぞご堪能ください。
最後に、当館の野十郎コレクション形成に対し、これまで多大なるご協力を賜りましたご遺族やご寄贈いただきました皆様に、深く感謝申し上げます。
福岡県立美術館
2021年春