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セーヌ河畔

Bank of the Seine

「セーヌ河畔」

昭和5-8年(1930-33)

パリは野十郎の滞欧において生活の拠点となった場所だが、この芸術の都をキャンバスにとどめた作品がとりわけ多いわけではない。そのなかでセーヌ川は彼のお気に入りの場所であったのか、場面を変えながらいくつかの絵にしている。本作はセーヌの川岸に係留されたペニッシュと呼ばれる平底船を描いている。洗濯物を船の甲板の上で干しているが、船上生活をするための船である。土手に立つ男性は、このペニッシュで暮らしているのだろう。野十郎はつねづね、描くべき対象を真正面から描いているが、本作では船を斜めから捉え、珍しい風景に出会った旅行者の目線のごとく、少し離れて観察するような距離感が保たれている。パリにまだ馴染んでいない野十郎の遠慮がちな姿が想像されて微笑ましい。

油彩・画布 / 45.4×60.5㎝