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早春

Early Spring

「早春」

大正10年(1921)

キャンバスの裏面には「早春」というタイトルの横に、線で消された「立てる木」というタイトルが書かれていることから、本作において野十郎が表現したかったのは、まさに木の姿であろう。広い草原のなかで、中央に描かれた背の高い2本の木は寄り添って立つかのようで、また互いを支え合うかのようでもあり、ひときわ印象的である。うねる線を用いながら、くねらせて描かれた幹はまるで踊るかのようであり、空へ向かって伸びる枝は、手を広げて背伸びをするかのようにも見える。生きとし生けるものの生命の喜びがこれらの樹木に託されているようだ。また地面に目をやると、枯草のふわりとした優しい表情が、画面に早春らしいやわらかな光を演出している。長い冬を終え、今にも春へ向かおうとする開放感に満ち溢れた作品である。

油彩・画布 / 90.4×72.8cm