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蝋燭

Candle

「蝋燭」

大正期(1912-26)

《蝋燭(ろうそく)》は、野十郎のトレードマークともいえる作品であり、生涯を通じて描き続けたテーマであった。野十郎の蝋燭の絵は、小さな画面の中心に一本の蝋燭のみを描くというのが基本スタイルであるが、蝋燭が一体何を照らしているのかが、絵の中で明示されないがゆえに、作品は象徴性を帯び、その神秘的で宗教的な雰囲気ともあいまって、見る者の心を揺さぶる。本作は、現存する中では最古の、大正期に描かれた蝋燭の作品である。この時期の他の作品と同様、とくに炎の描き方には、うねりながら天へ向かって上昇するという雰囲気が顕著に現れている。暗い色調の中に浮かび上がるかのように描かれたゆらめく炎。周囲の陽炎が強調されることで、光と闇の対比がドラマティックに表現されている。

油彩・板 / 22.7×15.6㎝