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絡子をかけたる自画像

Self-Portrait in Buddhist Priest's Stole

「絡子をかけたる自画像」

大正9年(1920)

本作は、野十郎が29歳の時に描いた自画像である。絡子(らくす)とは、禅宗で用いられる法衣(ほうえ)の一種で、この姿には禅へ信仰の厚かった兄・宇朗(うろう)の影響があったと思われる。正面向きの姿で自己をとらえるという点には、彼がその頃強く憧れを抱いていたドイツ・ルネサンスの画家、アルブレヒト・デューラー(1478-1528)の《1500年の自画像》(1500年、アルテ・ピナコテーク蔵)からの影響が顕著である。この絵が描かれていたとき、松田諦晶や古賀春江など久留米出身の画家たちと交流し、芸術論を闘わせていたという。その後彼らとは袂を分かつことになるのだが、まっすぐにこちらを見つめる眼差し、そして固く結ばれた口元には、野十郎の強靭な自我と精神性があらわれているようである。

油彩・画布 / 52.5×45.1㎝