close
りんごを手にした自画像

Self-Portrait with an Apple

「りんごを手にした自画像」

大正12年(1923)

野十郎が33歳の時に描いた本作は、彼の自画像として知られる4点のなかでもひときわ謎めいた印象がある。袈裟を身に着け、リンゴを右手に持ち、左手は印を結ぶようなしぐさ。彼は長兄である宇朗(うろう)の影響を受け、仏教に強い関心を抱いたと言われている。一方、リンゴは本作以前から彼が好んで描いていたモチーフであった。推察するならば、仏教的なるものと、絵を暗示するリンゴが登場するこの自画像は、絵を描くことは仏の教えに沿うのだと語っているようにも解釈できる。またこの頃野十郎は、ドイツ・ルネサンスの画家であるアルブレヒト・デューラー(1478-1528)に憧れており、本作は、デューラーの《あざみを手にした自画像》(1493年、ルーヴル美術館蔵)を模したのかもしれない。こちらを見つめる、鋭く野心に満ちた眼差しは、画家として身を立てるという強い決意表明であるのだろうか。

油彩・画布 / 60.5×49.2㎝