蝋燭(ろうそく)や月、太陽をテーマにした連作は、野十郎の画業を最も特徴づけるものである。ひとつの絵画平面のなかで、光と影をいかにうまく表現するかということは、あらゆる画家の共通課題であろうが、野十郎の場合はそれを一歩推し進め、「光そのもの」、そしてその対極にある「闇そのもの」を主題としているという点で極めて特異である。写実によって闇を描くというのは、絵画表現の極限を追求しているようにも思えるが、これらの作品群に、仏教などの思想的背景があることは間違いないであろう。
蝋燭の作品は、ほとんどがサムホールという極めて小さな画面に描かれている。個展で発表されることもなく、親しい友人や知人に感謝の気持ちとともに手渡された贈り物であったという。また、太陽の作品は、朝や夕方の情景であったり、空で激しく光を放つ光景であったりと様々であるが、光そのものが、様々な鮮やかな色の粒に置き換えられ、あたり一面を暖かく包み込むかのように広がっては、幻と消えていくその様子を描こうとしているようである。また月の作品は、晩年に千葉県柏市の静かな田園の中で暮らすようになってから徐々に変化を遂げた。最初は月夜の風景を捉えていたのが、だんだんと周囲の風景が捨象され、ただ暗闇に輝く満月だけを描くという、極めてストイックな画面へと変化していくのである。
これらの作品に刻み込まれた永遠に消えることのない光は、画面を超えて、我々の心をも照らし出すようだ。交錯する光と闇が織りなすこれらの作品群は、野十郎芸術の真骨頂である。