Water Lilies
「睡蓮」
昭和40年頃(c.1965)
周囲の木立が映り込む水面には、睡蓮の白い花が絶妙な間合いで描かれている。野十郎の絵では、その構図から、画面において中心となる対象が明示されるのが常であるが、あらゆる対象をクローズアップで描く本作においては、どの花にも葉にも、また水に映り込んだ影にさえも、等しく画家のまなざしが注がれているようである。正方形という画面の形がそれを助⾧しているのかもしれないが、こうした中心の喪失は、画家の見つめる世界がこの画面の中で完結することなく、画面を越えてその外へと広がっていることを感じさせる。本作は、野十郎の絶筆となった作品である。時間や空間などあらゆるものから自由になったこの穏やかな境地こそ、絵描きとしての生をまっとうした野十郎がたどり着いた場所であった。
油彩・画布 / 59.5×48.5㎝