close
野十郎の風景画の構図的特徴

「野十郎の風景画の構図的特徴」

 野十郎の風景画には、いくつかの共通した構図的特徴があります。ひとつには、縦横の中心線を強く意識した構図であるということです。例えば《早春》や《御苑の春》に描かれた木のように、中心となる対象を絵のちょうど真ん中に描き、左右対称性を強調しています。そしてこれは、《蝋燭(ろうそく)》や《月》にも繋がる特徴です。また、《春の海》などのように、画面の縦を上下に均等に分け、地平線や水平線をその中心に合わせてまっすぐに引いている作品もしばしばあります。
 さらには、独特の遠近感や空間表現であることもまた特徴です。西洋美術に伝統的に用いられてきた線遠近法や空気遠近法とは大きく異なり、《筑後川遠望》や《ひまわり》のように、手前に見えるものをより大きく、その奥に見えるものを小さく描くというストレートな手法が取られています。そしてその際のアクセントとして、「縦に伸びる輪郭線」を意識的に使いながら、画面に縦横の力学を導入して、絵の中でバランスを取ることも心掛けているようです。たとえば《ひまわり》では、手前に生き生きと描かれたヒマワリの花の茎には、面相筆(めんそうふで)で垂直に引かれた、細くはあるものの明瞭な輪郭線が確認でき、これにより作品に「上昇する雰囲気」が加えられています。
 このように野十郎の風景画は、気の赴くままに出かけた旅先で出会った美しい風景を、即興的に写し取ったスケッチではなく、野十郎が自らの目と手を通して、じっくりと時間をかけて咀嚼(そしゃく)し、再構成した、野十郎ならではの世界なのです。