輝く色彩

9/10

絵画作品において、色彩は極めて重要な役割を持ち、用いられる色によって作品へもたらす雰囲気や印象が大きく変わります。ここでは絵画作品における色彩に注目し、華やかな雰囲気を持つ、色彩豊かな作品をご紹介します。

「さくらうし」

松本英一郎

平成2年(1990)

油彩・画布

193.5×193.5㎝

苦しい闘病生活の過程で、桜のまぶしく苦痛を伴うほどの明るさに感化されたという松本英一郎が、55歳以降10年間にわたって手掛けた連作「さくら・うし」シリーズのひとつです。画面の上部には、桜の花を白と桃色をした雲の形によって描き、中部には爽快に晴れわたった青い空と地平線を、そして下部には茶畑と、その中に溶け込んでいくかのような牛の姿を描いています。重なりながら前にせり出しては増殖を繰り返していくかのような桜の描写は、コンピューターグラフィックをも想起させます。優しくふんわりとした色彩を用いて、現実と非現実の間を行きかうような不思議な世界を現出させています。

松本英一郎(まつもとえいいちろう・1932-2001)

福岡県久留米市に生まれる。福岡県立明善高校を卒業後、松田諦晶に学ぶ。昭和28年(1953)東京芸術大学に入学、さらに専攻科へ進み林武に師事する。在学中から独立展に出品し、独立賞を連続受賞して、同35年には会員に推挙された。同43年には多摩美術大学に赴任、のち教授となる。「肥満体」、「退屈な風景」、「さくら・うし」「花と雲と牛」等の各シリーズで、現実と非現実とが複合された独自の世界を描き続けた。
close