冨田溪仙

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京都画壇で活躍した冨田溪仙(1879-1936)は、福岡県を代表する近代日本画家のひとりです。福岡県立美術館の所蔵する溪仙作品から、代表作を始め、溪仙の個性的かつ詩的な作風を示す作品をご紹介いたします。

「栂尾晩秋」

冨田溪仙

昭和9年(1934)

絹本着色・軸装

46.5×51.5cm

栂尾(とがのお)とは、京都にある栂尾山高山寺のこと。日本最古の茶園があるところとしても知られます。季節は晩秋に差し掛かり、紅葉したもみじが地面に落ちているようです。栂尾を含む、清滝川周辺の地域は、現在も紅葉の名所として、秋には多くの人で賑わいを見せています。溪仙は18歳で上洛し、40歳で嵯峨野に自らの画室を構えました。長く過ごしてきた京都の秋らしい風景を色鮮やかに描いた、溪仙晩年期の作です。

冨田溪仙(とみたけいせん・1879-1936)

福岡市に生まれる。本名鎮五郎。少年の頃衣笠守正に狩野派を学ぶ。明治29年(1896)、京都に出奔し翌年四条派の都路華香に入門。日本絵画協会展、後素協会展などで入選を重ねる。大正元年(1911)、南画風の筆致による文展初入選作「鵜船」が横山大観に認められ、大正3年再興院展に京都派から初参加、翌年同人のち審査員となる。新南画ともいえる画風を拓いたが、後年は清新な自然観照にもとづく独自の表現に至った。
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