近代洋画名品10選

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福岡県立美術館のコレクションの核である近代洋画(油彩画・水彩画)の中から、10人の作家による名品10点を選りすぐってご紹介します。近代洋画には、九州ゆかりの作家が非常に多いことが知られていますが、ここで紹介する作家10人も全員が九州の出身です。九州の地ではぐくまれた豊かな近代洋画の広がりを感じてください。

「わだつみのいろこの宮(下絵)」

青木繁

明治40年(1907)

油彩・板

33.0×23.4㎝

本作は、『古事記』の上巻に書かれた綿津見の宮の物語を題材とした《わだつみのいろこの宮》(明治40年、重要文化財、アーティゾン美術館)の下絵習作のひとつです。緑や白、青、黄など、様々な色が揺らめく画面からは、作家の優れた色彩感覚を見て取ることができます。青木繁にとって記紀の神話は重要な着想源であり、独自の想像力と抜きんでた表現力を通して、神話を再解釈した絵画を次々と制作しています。《わだつみのいろこの宮》は彼にとっての意欲作であり、本作のような下絵の制作を重ねて、周到な計画に基づいて完成させた大作でした。しかし、それを出品した東京府勧業博覧会では三等賞という不本意な結果に終わり、以後失意のうちに東京を離れ、九州放浪の旅に出たのち、4年後の明治44年(1911)に28歳の若さで亡くなりました。

青木繁(あおきしげる・1882-1911)

福岡県久留米市に生まれる。明治32年(1899)県立中学明善校を中退し上京、不同舎に入る。翌年東京美術学校に入学。同36年白馬会展に浪漫的な神話画稿を出品、白馬会賞を受賞する。翌夏、房州に遊び浪漫主義の記念碑的名作「海の幸」を制作、白馬会展に発表し一躍名声をあげるが、同40年の文展に落選。失意と困苦のうちに天草や佐賀、唐津などを放浪し、28歳で福岡市において死去。
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