近代洋画名品10選

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福岡県立美術館のコレクションの核である近代洋画(油彩画・水彩画)の中から、10人の作家による名品10点を選りすぐってご紹介します。近代洋画には、九州ゆかりの作家が非常に多いことが知られていますが、ここで紹介する作家10人も全員が九州の出身です。九州の地ではぐくまれた豊かな近代洋画の広がりを感じてください。

「サイゴンの夢」

中村研一

昭和22年(1947)、第3回日展

油彩・画布

99.0×79.2cm

ベトナムの民族衣装であるアオザイを身にまとい、片膝を立てて座る画家の妻をモデルにした本作。逆光に照らされながら、まっすぐにこちらを見つめる強い眼差しが印象的です。アオザイの柔らかな風合いとスチール椅子の固く冷たい質感とを絶妙に描き分け、光と影の強いコントラストも明瞭に描き分けるなど、定評のあった人物画制作の技術が光る作品です。戦争で代々木のアトリエを焼失したのち、戦後まもなく東京郊外の小金井へ移り住んだ中村は、その地で本作を手がけ、始まったばかりの日展に出品しました。そのような意味でも、本作は中村研一の戦後の出発点といえる作品です。以後も中村は、妻をモデルとした婦人像を描き続けました。

中村研一(なかむらけんいち・1895-1967)

福岡県宗像郡宮田村(現・宗像市)に生まれる。大正3年(1914)県立中学修猷館を卒業。翌年上京し、本郷洋画研究所を経て東京美術学校で岡田三郎助に師事する。同校卒業の同9年に帝展に初入選し、翌年特選を受賞。同12年渡仏、サロン・ドートンヌ会員となる。昭和3年(1928)の帰国後は帝展で特選を連続受賞するなど、官展、日展の重鎮として活躍。同25年日本芸術院会員。戦後は手堅い写実に鮮やかな色感を加味した力強い画風を推し進めた。
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