描かれた女性たち

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絵画制作のモデルとして、女性はしばしば絵画に描かれてきました。それは専属のモデルであったり、家族や親しい友人であったり、はたまた見知らぬ誰か、ということもあるでしょう。ここでは、福岡県立美術館の所蔵作品の中から、女性たちが登場する作品をご紹介いたします。

「サイゴンの夢」

中村研一

昭和22年(1947)、第3回日展

油彩・画布

99.0×79.2cm

ベトナムの民族衣装・アオザイを身に着けた女性が、椅子に上げた片膝をかかえています。描かれているのは研一の作品にしばしば描かれる妻・富子。民族服をまとう女性像というのは、植民地支配を背景に戦前期に広く画題とされましたが、本作は戦後、ちょうど研一を含む戦争画制作に携わった画家らが糾弾されていた時期の作品です。まっすぐこちらを見つめる眼差しには、画家としてこれからも描き続けていくという強い意志が重ねられているようです。

中村研一(なかむらけんいち・1895-1967)

福岡県宗像郡宮田村(現・宗像市)に生まれる。大正3年(1914)県立中学修猷館を卒業。翌年上京し、本郷洋画研究所を経て東京美術学校で岡田三郎助に師事する。同校卒業の同9年に帝展に初入選し、翌年特選を受賞。同12年渡仏、サロン・ドートンヌ会員となる。昭和3年(1928)の帰国後は帝展で特選を連続受賞するなど、官展、日展の重鎮として活躍。同25年日本芸術院会員。戦後は手堅い写実に鮮やかな色感を加味した力強い画風を推し進めた。
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