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水のある風景
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海や川、湖など、水のある風景はしばしば多くの画家の心を捉え、様々なかたちで絵画に描かれてきました。ここでは、10人の洋画家が描いた「水のある風景」をご紹介します。風景画を中心に、水のある風景の中に描かれた人物など、「水のある風景」が見せる様々な表情をお楽しみください。
「波止場のI氏」
柳瀬正夢
大正11年(1922)
油彩・画布
72.5×49.0cm
本作のモデルとなったI氏とは磯辺泰一氏で、柳瀬正夢を門司の地において支援した人でした。柳瀬は、門司港の波止場にひとりたたずむ磯辺氏を、夕暮れの逆光表現の中に描きました。柳瀬のこの頃の作品には、本作のような点描的な作風が見られますが、縦方向のリズミカルなタッチが並ぶ従来の点描作品とは異なり、本作ではやや大きく丸い点が一定の方向性を持つことなく、画面にちりばめられています。
柳瀬正夢(やなせまさむ・1900-1945)
愛媛県松山市に生まれる。本名正六。明治44年(1911)門司に移住、大正3年(1914)上京し日本水彩画研究所等で学ぶ。翌年門司に戻り院展洋画部に入選。同8年再上京し未来派美術協会に参加、同12年「マヴォ」を結成、翌年三科造形芸術協会の発起人となる。この頃から社会主義思想に傾いて絵画制作から遠ざかり、諷刺漫画やポスターなどグラフィックの世界に活躍の場を移す。昭和元年の日本プロレタリア芸術連盟創立にあたり中央委員となる。同6年日本共産党入党。翌年治安維持法違反容疑で検挙、以後活動を制限されるなかで絵画制作を再開。同時に俳句や写真に取り組む。同20年新宿駅の空襲で没した。