水のある風景

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海や川、湖など、水のある風景はしばしば多くの画家の心を捉え、様々なかたちで絵画に描かれてきました。ここでは、10人の洋画家が描いた「水のある風景」をご紹介します。風景画を中心に、水のある風景の中に描かれた人物など、「水のある風景」が見せる様々な表情をお楽しみください。

「因ノ島」

大内田茂士

昭和54年(1979)

油彩・画布

91.0×105.9cm

広島県尾道市の因島に取材した本作では、画面の手前には花々や田畑を描き、その奥には海沿いに広がる工場地帯の風景を描いており、自然物と人工物の姿対照的に捉えています。また、両者の間に描かれた深い群青色の海がとても印象的です。画面の下半分は具体的なモチーフが見られる一方、上半分の空の部分には輪郭のない色面が置かれ、穏やかな瀬戸内の風景でありながら、どこか不穏な様子を感じさせます。半年にわたるヨーロッパ滞在の経験を経て、抽象画のスタイルを自作に取り入れるようになった大内田茂士は、画面を律動的な色面で埋めるようになり、本作のように具象的要素と抽象的要素を融合させた独自の画風へを確立しました。

大内田茂士(おおうちだしげし・1913-1994)

福岡県朝倉郡大福村(現・朝倉市)に生まれる。県立朝倉中学を卒業後、浜哲雄、山喜多二郎太、髙島野十郎らに指導を受ける。昭和12年(1937)上京、新宿絵画研究所で鈴木千久馬に師事。翌々年光風会展に初入選し、その後国展にも連続入選。戦後は日展に出品し、同26年に特選を、また国展でも同22年国画賞を受賞する。同23年からは国展を退き、示現会の創立会員となり同展に連続出品。同38年日展審査員となり、翌年会員、同53年評議員、平成元年理事に就任。示現会では昭和52年常務理事になる。同63年日本芸術院賞恩賜賞を受賞し、平成2年(1990)には日本芸術院会員に推された。
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