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輝く色彩
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絵画作品において、色彩は極めて重要な役割を持ち、用いられる色によって作品へもたらす雰囲気や印象が大きく変わります。ここでは絵画作品における色彩に注目し、華やかな雰囲気を持つ、色彩豊かな作品をご紹介します。
「黄衣」
中村琢二
昭和30年(1955)
油彩・画布
90.9×72.7cm
戦後期になると、中村琢二のそれ以前の作品に顕著であった、安井曾太郎風の静謐で写実的な画風が影をひそめ、マチスへの明瞭な接近を感じさせる晴れやかでモダンな作風へと一変します。そこでは細かな描写が省かれ、鮮やかな色面のみで対象を造形化していくというスタイルがとられました。椅子にゆったりと腰かけた女性を描く本作ですが、「黄衣」というタイトルからもわかるとおり、絵の主役は女性が身にまとった黄色いワンピースです。黄色を絵の多くの部分に用いながらも、そこに淡い水色や白やオレンジ色などを絶妙に組み合わせた本作は、豊かな色彩感覚を有する琢二の、カラリストとしての側面を感じさせます。
中村琢二(なかむらたくじ・1897-1988)
中村研一の実弟として新潟県佐渡島に生まれる。のち福岡県宗像郡に移住。県立中学修猷館を経て、大正13年(1924)東京帝国大学(現・東京大学)を卒業。昭和3年(1928)帰国した兄の勧めで本格的に絵筆を握ることを決意。昭和5年安井曾太郎に師事し、同年から二科展に連続入選する。同17年一水会会員となり、戦後は日展にも出品を重ね、同会顧問となる。明快な色調と軽妙なタッチの親しみやすい風景画、人物画を得意とした。