花やぐ美術館

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美しい自然、とくに花や草木は、洋画日本画、具象抽象を問わず、絵画の主題として描かれてきました。福岡県立美術館の所蔵作品から、季節と観るものの心を彩る華やかな自然を作品をご紹介いたします。

「果樹島園」

柳瀬正夢

大正7年(1918)

油彩・画布(屏風装)

83.0×136.0㎝

島々の表面は桃色に彩られ、どうやら春のようです。手前にはこれから成長する植物が植えられている畑と、近くで寝転ぶ犬、遠くの海には舟が浮かびます。のどかな島の風景に、春のうららかな昼下がりのようなのんびりとした時間の流れを感じさせます。一方で、花や波、植物などを表す大きめの点描と、うねるような樹木の枝、起伏をなす島々の稜線が、画面に動きを感じさせます。油彩でありながら、屏風という日本画の様式に仕立てられているという点にも注目したい作品です。

柳瀬正夢(やなせまさむ・1900-1945)

愛媛県松山市に生まれる。本名正六。明治44年(1911)門司に移住、大正3年(1914)上京し日本水彩画研究所等で学ぶ。翌年門司に戻り院展洋画部に入選。同8年再上京し未来派美術協会に参加、同12年「マヴォ」を結成、翌年三科造形芸術協会の発起人となる。この頃から社会主義思想に傾いて絵画制作から遠ざかり、諷刺漫画やポスターなどグラフィックの世界に活躍の場を移す。昭和元年の日本プロレタリア芸術連盟創立にあたり中央委員となる。同20年新宿駅の空襲で没した。
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