花やぐ美術館

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美しい自然、とくに花や草木は、洋画日本画、具象抽象を問わず、絵画の主題として描かれてきました。福岡県立美術館の所蔵作品から、季節と観るものの心を彩る華やかな自然を作品をご紹介いたします。

「行く春」

松永冠山

昭和5年(1930)

紙本着色・二曲一隻屏風

196.5×147.4cm

花は満開の時が美しいとされますが、桜は散るときも絵になります。本作は、そんな桜の散りゆく姿を描いた作品。画面右に大きく描かれる葉桜にはほとんど花が残っていませんが、木からはちらちらと、白い花弁が舞っています。一方、そのうしろには、まだ花の残った桜、そして足元には黄色い小さな花が点々と咲いています。まるで、過ぎ行く春の一瞬を切り取ったかのよう。春の名残を惜しみつつも、若々しい新緑の季節から、緑深まる夏へと向かっていきます。

松永冠(まつながかんざん・1894-1965)

福岡県糸島郡前原町(現・糸島市)に生まれる。本名関蔵。明治42年(1909)糸島郡立農学校を中退後、同44年京都市立美術工芸学校絵画科に入学。大正3年(1914)には京都市立絵画専門学校本科に入学する。同6年第11回文展に初入選。翌年同校研究科に進み同9年卒業。同11年京都の菊池契月塾に入門。その後官展に入選を重ね同22年日展委員となる。同19年に帰郷し西部美術協会委員、県美術協会常任理事となるなど、福岡県の日本画壇の主導者として活躍。風景画に新生面を拓いた。
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