冨田溪仙

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京都画壇で活躍した冨田溪仙(1879-1936)は、福岡県を代表する近代日本画家のひとりです。福岡県立美術館の所蔵する溪仙作品から、代表作を始め、溪仙の個性的かつ詩的な作風を示す作品をご紹介いたします。

「琉球帖」

冨田溪仙

大正6年(1917)

絹本着色、墨書

画帖(折本仕立)

本作を描く前年の4月、溪仙は沖縄を訪れています。画帖には那覇や糸満、首里城など現在でも見られる地名が並びますが、描かれる様子は、生い茂るヤシや南方の植物、中国風にも見える石橋や漁船など、南洋情緒あふれる琉球の姿。海に囲まれた琉球の水辺の生活の様子も、生き生きと伝えています。大正期、交通手段の発達に伴い海外旅行が一般にも広まったこと、異国趣味的関心が高まったことを受け、画家による東アジア旅行が流行しました。溪仙による本作も含め、多くの画家がスケッチを伴う旅行記を作成しています。

冨田溪仙(とみたけいせん・1879-1936)

福岡市に生まれる。本名鎮五郎。少年の頃衣笠守正に狩野派を学ぶ。明治29年(1896)京都に出奔し翌年四条派の都路華香に入門。日本絵画協会展、後素協会展などで入選を重ねる。大正元年(1911)南画風の筆致による文展初入選作「鵜船」が横山大観に認められ、大正3年再興院展に京都派から初参加、翌年同人のち審査員となる。新南画ともいえる画風を拓いたが、後年は清新な自然観照にもとづく独自の表現に至った。
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