冨田溪仙

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京都画壇で活躍した冨田溪仙(1879-1936)は、福岡県を代表する近代日本画家のひとりです。福岡県立美術館の所蔵する溪仙作品から、代表作を始め、溪仙の個性的かつ詩的な作風を示す作品をご紹介いたします。

「渋柿に猿図」

冨田溪仙

大正6年(1917)

絹本着色・軸装、「十二ヶ月図」のうち十月

171.3×41.6cm

本作は「十二ヶ月図」のうち十月。描かれるのは、越冬に備え、旬を迎えたわわに実った柿を食べに来た猿たち。しかし、題にもある渋柿は、どうやら実際ニホンザルも好んでは食べないようで、親子の猿も、何か考えているかのように口元に手をやる猿も、丸まった背中にどこか哀愁が感じられます。画面上部からSの字を書くように力強く伸びている柿の枝は、木全体の大きさを想起させ、縦長の画面に見事に空間を描き出しています。

冨田溪仙(とみたけいせん・1879-1936)

福岡市に生まれる。本名鎮五郎。少年の頃衣笠守正に狩野派を学ぶ。明治29年(1896)京都に出奔し翌年四条派の都路華香に入門。日本絵画協会展、後素協会展などで入選を重ねる。大正元年(1911)南画風の筆致による文展初入選作「鵜船」が横山大観に認められ、大正3年再興院展に京都派から初参加、翌年同人のち審査員となる。新南画ともいえる画風を拓いたが、後年は清新な自然観照にもとづく独自の表現に至った。
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